
シャプタリザシオン(CHAPTALISATION)は、発酵途中のワインにアルコール強化の目的で糖分を補完することを指します。
ここは間違って覚えてしまうことは避けたいところですし、できれば深く理解したほうがいい部分なのでしっかりと理解しましょう。
一般的に、ワインは自然にできる限り近いほうが良いとされているので、シャプタリザシオンはデメリットにとらえられがちです。
また、栽培技術の向上によって糖分に恵まれたブドウがえられるのだからシャプタリザシオンはそもそも必要ないじゃないか、という考えの人もいますが、これはやや短絡的な意見かもしれません。
ブドウの糖分が早々に上がることで、ブドウ栽培農家のリスクヘッジは悪天候の回避にフォーカスをされることになり、そうなると自然な糖度の獲得に至らない、ということにもなるのです。
Contents
シャプタリザシオン
科学者シャプタル
シャプタリザシオンはもともとナポレオン時代の内相(現在の大臣職)であったジャン・アントワンヌ・シャプタル(写真↑)が開発したとされています。
(もっとも、後述しますが実際のシャプタリザシオンそのものはシャプタルが公表する前にすでに実務レベルでは普通に行われていました。)
シャプタルは10歳年上のラヴォワジェ(フランス革命でギロチンに消える)と同様に血の気の多い化学者で、処刑されたラヴォワジェと違い革命をうまく生き延びます。
優秀だったシャプタルはのちにナポレオンに登用されて内相になります。
内相になったシャプタルは辣腕を振るい、主に以下のようなことに着手し、実績を収めます。
・中央と地方の情報促進
・公道・運河などの公共事業の促進
・病院や学校、監獄の改修
・科学技術の発展促進
・産業への機械導入
・主に医療・薬事への教育促進
ここにあげただけでも素晴らしい実績でしょう。
シャプタルは農業こそがフランスの基礎と考え、湿地帯の開墾や土地台帳の整備、家畜類の品種改良にも成功します。
シャプタルの退職
ここまで実績を残しておきながら、シャプタルは1804年にナポレオンに辞表を出します。
もともとシャプタルは自由主義経済を標榜するリベラリストです。
その主義主張がナポレオンの個人的な独裁政治に耐えられなかっただろうということがその理由とされています。
ナポレオンはシャプタルを老院議員として労をねぎらおうとしますがこれを固辞。
一民間人として砂糖の輸入量の増大を抑えるために根菜類から糖分を抽出する手法を開発します。
この蔗糖こそがシャプタリザシオンの基礎なのです。
(なお、シャプタルは1810年に強い要請を断り切れずに再度上院議員として活躍します。)
フランスワインの低迷期
当時フランスワインは一時期の名声を失い、品質に対する信頼が揺らいでいた時期でした。
これをシャプタルは、
・多産種ブドウの栽培
・質より量の生産者の意識
・栽培・醸造に関する無知
・粗悪なワインにとって都合の良い税制
などが原因と突き止めます。
そのなかで、低品質なワインの底上げが重要と考えたシャプタルは一つの手法を提案します。
根菜類から抽出した蔗糖を添加し発酵させて、酒質を増して飲みごたえを強くし、さらに流通にも耐えうるようにしようというものです。
この手法を、彼の名前を取ってシャプタリザシオンと呼ぶこととするのです。
シャプタリザシオンの本質
糖分の添加というと甘みを付け足すという意味を持つ方もいるかもしれませんが、それは違います。
シャプタリザシオンの本質は糖分を添加したうえでアルコール発酵をさせ、こうすることでアルコールの強いワインを造ることがその本質です。
(もっとも、強いといっても、不作のときの補てんの目的ですし、上がるアルコール度数はほんの数パーセントです)
もともとワインはブドウ果汁に含まれる糖分が酵母の働きによってアルコールと炭酸ガスに分解されてできるので、そこに糖分を外部から加えても問題なくワインとなります。
発酵が完全に行われれば、糖分はすべて分解されてアルコールになりますので甘味が増えるわけではありません。
この手法は、名前こそシャプタリザシオンとなっていますが、もともとシャプタルがクロドヴージョを訪れた時に普通に行われていた手法を広めたことがきっかけです。ブルゴーニュはもちろん、冷涼な地域であれば不作時の対策として自然とされていたことだったのです。
シャプタリザシオンへの抵抗感
ワインは自然の産物というイメージが強いため、どうしても糖分を外部から加えることを毛嫌いする方もいます。
もちろんそのイメージは大事なのですが、ブドウが人間の都合に合わせて糖分を上げているわけではありませんので、どうしても必要なときは出てきます。
糖分添加自体が悪いわけではなく、その多用や濫用が弊害を生むわけであって、そのため現在ではAOCで厳しく糖分添加の決まりを設けています。
・添加する糖分の量の上限を設ける
・当分は甘蔗糖、甜菜糖、濃縮果汁に限られる
・白ワインは甘蔗糖のみとする
・ブドウ糖の使用は禁止する
などの決まりを設けています。
添加量に関しては一リットル当たり30グラムが限度でありましたが、現在では各地方で独自ルールで縛りを設けています。
例えばブルゴーニュですと一リットル当たり赤ワインが18グラム、白ワインが17グラムとされています。
テクニカル
実際の主目的は前述するアルコールの強化ですが、アルコール発酵が行われることでアルコール以外にも芳香成分やグリセリンも発生します。
グリセリンは甘みとなりますので、これは避けようがありません。
また、ブルゴーニュの名門DRCでも普通のようにシャプタリザシオンは行われています。
これはアルコールの強化も目的ですが、
これによって二次的に発酵の末期をコントロールし、
タンニンと色素成分を最大限に抽出するための果皮浸漬を長くさせるため
に行うとされています。
糖分添加についてはいろいろ批判もあるでしょうし、一部のワインファンにとっては耳障りの悪いこともご紹介しました。
もちろん糖分添加をせずにワインができればそれに越したことはありませんが、そうもいかないときもあり、「いい」「悪い」の二元論で論ずると極論と極論でぶつかり合うだけでただのケンカで終わってしまいます。
要するにバランスの問題であって、多用しすぎればワインの品質そのものを下げるのですから、そうでない場合(品質が下がらない場合)は、シャプタリザシオンも一つの手法なんだと思っておおらかにいるほうがワインを楽しめると思いますが、いかがでしょうか。
こちらの記事もお勧めです。
ここからはPRになります。
当サイト「ワインの教科書」は、高品質ワインのオンラインショップ「ワインブックス」を運営しています。
もしあなたが当サイトでワインに興味をもち、「実際に飲んでみたい、手にしてみたい」そう思ったときに覗いてみてください。
きっと素晴らしいワインとの出会いが待っていることを、お約束します。