ワイン用語集

ワイン業界の”協同組合”とは?

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ワインをある程度飲んできた人であれば、おそらくほとんどのひとはドメーヌ物やシャトー物、

―つまり生産者が栽培から醸造、瓶詰めまでを行うところのワイン―

を好んでいると思います。

好みの問題なのでどのワインが好きであってももちろん何の問題もありません。

たしかに、品質や個性ということになるとこれらのワインはそのほかのワインに比べると一歩秀でているのはその通りでしょう。

ただし、ワイン業界全体を見ると見過ごせないのが、これらの品質と個性を前面に出したワインと同時に大衆的で多くの顧客向けにワインを取り扱う人たちの存在です。

 

今の日本のワイン文化はコンビニやスーパーのワイン抜きにしては語ることはできませんが、このカテゴリのワインは大まかに言って二つのキーワードを押さえる必要があります。

それが「協同組合」「ネゴシアン」で、これら二つは単独の役務のところもあるし、二つの要素を持ち合わせた団体もあったりします。

全体的に見ると、協同組合の地位は右肩上がりで現在に至り、ネゴシアンの地位はやや地盤沈下を起こしている、というところでしょう。

 

ここではこの二つのうち協同組合について、その全体像と成り立ちを見てみましょう。

フランスでのブドウ生産者協同組合を引き合いに出していますが、おおよそどこの国も同じような道をたどります)

 

ワイン業界の「協同組合」

グローワーとネゴシアンの二元論

樽で買い付けるネゴシアン

流通が発達する前のワイン造りはそれぞれのワインは規模が小さく、一部の例外を除きおおよそ地産地消で完結していました。

しかし19世紀以降、鉄道などの流通経路が確立されると一つの産業として大きな規模のところができてきます。

そうなると役割としてブドウ栽培農家(グローワー)とそれを集荷して販売するネゴシアンに分かれることになります。

ブドウ栽培農家は目の前のワイン造りに目を向けますが、ネゴシアンはより多くの客を相手にするため、成功したネゴシアンはより大きな財力を蓄えることになります。

そうなるとネゴシアン同志であっても弱小業者は淘汰され、生き残ったネゴシアンはいよいよ巨大化・寡占化をしていくのです。

 

ネゴシアンは自分たちの利益の追求こそがその正義なので、あの手この手を考えて自分たちに有利な契約を行います。

ーいい時はより利潤を大きく、悪い時はできる限りのリスクヘッジをー

 

そして景気が悪くなるとなりふり構わず営業し、栽培農家にとって不利な取引をし、最悪な場合不景気の理由を栽培農家に押し付けるのです。

こうなると他に売るべき手段を持たない栽培農家はネゴシアンの言い値で取引をするしかなく、彼らの言いなりになるしか仕方がなかったのです。

こう表現するとネゴシアンが悪者のようにとらえられてしまいますが、そんなことはありません。
 
ネゴシアンがなければそもそもワインがここまでの発展をすることはありませんでしたし、いつまでたってもワインは一部の特権階級の人だけのものとなってしまいます。
 
ここではやや生産者寄りの記載をしていますが、ユーザー様にはご了承の上読み進めてくださいますようお願いいたします。

 

協同組合の出現

では、これらの窮状を脱出するにはどのような手段があるでしょうか?

歯を食いしばって現状をこらえて春が来るのを待つか、あるいは救世主の出現を待つか・・・

日本とは違い血の気の多いフランスの生産者がそんな悠長なことはするはずがありません。

もちろん一致団結して戦うのです。

これが協同組合発足のきっかけです。

 

協同組合の発想は、もともとはイギリスで生まれましたがすぐに世界規模になり、フランスでも1848年に革命臨時政府が資金援助をする形で大規模な協同組合が生まれています。

そしてその後に農業銀行が生まれ、この援助のもと着実に地位を固め、20世紀の二つの世界大戦をはさんで飛躍的な発展を遂げるのです。

 

現在フランスでは農業協同組合の数は2万以上に及んでいます。

1789年のフランス革命によって貴族の封建的支配から解放され、栽培農家が小さくても直接の土地所有者となります(当たり前ですがフランス民法にも所有権絶対の原則があります)。

戦いによって権利を勝ち取った経緯から、自己所有、ひいては自由に強い執着心があるので時として過激な行動に出ることもあります。

(→シャンパーニュメゾンアヤラを参考)

 

醸造設備の所有

大規模な協同組合の醸造所

このように生まれた協同組合ですが、少しずつ発展を遂げていく中で、自分たちが造ったブドウを自分たちでワインにする大規模な設備が必要だ、との認識が強くなります。

そして帰結として、「そうなると商品化した時にネゴシアンのものよりもいいワインを造るほどの醸造設備が必要だ」となるのです。

それはそうでしょう。ネゴシアンからすれば生産者が結託して協同組合でワインを造ったはいいが品質が悪く、消費者にそっぽを向けられれば「それ見たことか」ということにもなってしまいます。

この流れで大規模な醸造工場を持つ協同組合は少しずつ出現し、そして第二次大戦以降、その数は飛躍的に増えます。

現在では協同組合の醸造設備はフランス全土にあって、ないところのほうが珍しいでしょう(ex ポムロールはない)。

 

協同組合のシステム

協同組合というとのんびりした牧歌的なイメージを持つ方も多いと思いますが、若干イメージは違うようです。

フランスのワイン生産者協同組合は血気盛んなところも多く、中には小規模なドメーヌと同様品質にとことんこだわったところも少なくありません。

また、一つひとつの協同組合で個性があって、販売の仕方もそれぞれバラバラです。

・例えば組合独自のブランドで売り出すところもあれば、組合内での品質のランキングごとにブランドを変えるものもあります。

・また協同組合とはいってもいわば醸造設備の間貸しで、ブドウ栽培農家から運ばれたブドウをワインにしてそれをまた栽培農家に戻すところもあります。

・ネゴシアンの下請けのようなところもあり、組合内の栽培農家から仕入れたブドウをワインにして、ネゴシアンのリクエスト通りに仕上げ、そしてそのままネゴシアンに卸すところもあります。

 

後者の二つは見方によっては「なんだ、これでは協同組合とは名ばかりでただの間貸しじゃないか」と若干ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。

 

また、協同組合のワインであっても高品質のワインを生み出しブランディングに成功した例もあります(ex シャブリシャブリジェンヌ、シャンパーニュジャカールなど)。

 

協同組合の副産物

協同組合はこのようにして、もともとは生産者保護のための自治組織から、ネゴシアンへの対抗組織として、さらには共業者としての発展を遂げてきました。

そして、農家の意識改革としても一役買い、近代的な醸造設備を稼働させていくために最新の技術や知識が浸透するという副産物も生むのです。

栽培農家の人たちは当初”あんな若造に何がわかる”と半信半疑だったのが、目の前で自分たちよりもはるかに品質の良いワインを造られるとそのうち姿勢を変えてきます。

収穫年によっては難しかったかもしれないブドウを、最新の技術でおいしいワインにするところを目の当たりにするのです。

それまでは天気のせいにしてあきらめていた酒造りの親爺も、この成功体験によって協同組合の醸造設備を学びの教室とするようになるのです。

 

19世紀の終わりには、現代のトップクラスのワインと同じようないわゆる理想美とされるワインは完成されていました。
 
しかし、これはワイン文化のうちのほんの一部分のハイライトでしかありません。
 
その頃は優れたワインを飲めたのはほんの一部の特権階級に限られていて、一般大衆の口に入ることはなかったのです。
 
フランスであれば、大衆が水代わりに飲んでいたワインはひどいものだったし、美味しいとかおいしくないとかを語るようなものではありませんでした。
 
(水代わりにワインを飲む、というよりも水道事情が悪かったので相対的にワインのほうが衛生的だった)

 

現代であっても例えばボルドーの高級シャトーであればそう気軽に飲めるものではありませんが、とはいえ1500円から2000円も出せばおいしいワインを見つけることができます。
 
おそらくそれらのワインはよく検討するとドメーヌ物ではなく、協同組合やネゴシアンものがほとんどでしょう。
 
つまり、ほんの一部の高級クラシックワインの層と、大衆向けのワインのうち、明らかに進化したのは後者であって、その一翼は協同組合であり、ネゴシアンの存在なのです。
 
デイリーワインで「お、これはおいしいぞ」というものに出会ったときに、思い出してみてはいかがでしょうか。