
ポマール(POMMARD)は、ブルゴーニュの中でも最もワイン造りの歴史が古く、1936年にAOCとして認定されました。
中世より「コートドボーヌのワインの花」と呼ばれ、ブルゴーニュの代表的な赤ワインと言えます。
抜きんでたいくつかの畑があり、タンニンの力強い、美しいルビー色の赤ワインとなります。
正直に言えば日本での人気はそれほどでもないのですが、以前は英語圏諸国と北欧では最も人気のあるブルゴーニュワインの赤でした。
現在でもその傾向はあるのですが、発音がしやすく響きに高級感があるらしいということと、ルイ14世のころにポマール村の新教徒が英国や北欧に逃れた経緯があるとかの説があります。
ブルゴーニュの中でもコートドボーヌは白ワインがどうしてもフォーカスされ気味なのですが、赤ワインであればポマールをあげる人は多いかもしれません。
あるアイルランドの詩人は「ポマールを飲むとき、人は善人になり、恋をする」と評したことがありました。
さすがに美しく言い過ぎだろうと思いますし、人間そんなに身ぎれいにできていないと思うのですが、実際に味わうとじんわりとうまく、言いたくなる気持ちもまあわからなくもないかなという気になります。
もっとも、この村は響きがいいワインの宿命で品質に差があって、その意味では上級者向けのワインといえるでしょう。
指定栽培面積は337ha,実質栽培面積は300ha強。平均年間生産量は13500hlで、日本のワインショップだと1級クラスで8000円~15000円程度でしょう。
格下げのワインはACブルゴーニュ、もしくはブルゴーニュ グラン オルディネールとなります。
そのお店は外国人のお客様が多かったのですが、その中でもイギリス人のまだ20代くらいの青年が牛フィレ肉のグリルにポマールのワインを合わせて飲んでいたのが印象的でした。
そのお客様は店に入るなり店主に「牛フィレ肉はある?それを焼いてメインディッシュにして」とメニューも見ずにオーダーするのです。
そして前菜とかデザートとかもメニューは見ずにじゃんじゃん決めていきます。そしてワインはポマールを頼んであっという間にディナーは始まります。
「これこそが本当のグルメなんだ」と感心していたのですが、そのお客様はミントゼリーを持ち込んでいて、出てくる料理の全部の皿の横に添えて食べだしたのです。
もちろん食べ方は人それぞれなのですが、ワインと料理のマリアージュという視点でみるとさすがに無茶かもしれません。
今考えても、グルメにもいろいろあるなあと思いますが、当時のソムリエは何を思ってポマールをサービスしていたのか、興味のわくところです。
ポマール
全体像
赤のみのAOCで、ブドウの品種はピノノワールを100%使用しています。
ポマールには1等級畑もあり、南北に広がる地形となっています。
そのため南北で土壌に違いがあります。
南側は鉄とミネラル分が豊富で、砂利や粘土が多い土壌なので男性的なフルボディ―のワインが造られます。
一方で、北側は粘土や石灰、酸化鉄が混ざる褐色石灰岩質の土壌です。
斜面もなめらかで、果実味豊かなメリハリある華やかなワインとなります。
ポマールのワイン造りは、1080年ウード1世の時代にベネディクト会修道士たちがワイン造りを始めたことがきっかけです。
ブルボン朝初代のフランス国王アンリ4世が、ポマールのワインを愛飲していました。
また
ワイン愛好家であるナポレオンもポマールのワインを愛しており、定期的にポマール城に訪れたほどだったそうです。
18世紀以降に「シャトー・ド・ポマール」と呼ばれるようになっており、1855年にブルゴーニュワインの格付けで1級の称号が与えられました。
この時から世界的に周知されるワインとなったのです。
レ リュージャン/les rugeins
ポマールのプルミエクリュで最も評価の高いワインはレ リュージャンとエプノーでしょう。この二つはそのほかの1級ワインよりも頭一つ抜けた品質で、価格も高価です。
特にヴォルネイ寄りのリュージャン バは南東向きの斜面下部にあって、生産者にもお勧めできるところが多くあります。
リュージャンの語源はフランス語のルージュ(ROUGE)で、赤色の酸化鉄分が多く、土壌も赤みを帯びています。
5.83haの畑から14以上の所有者がいるため、生産者によっては並質のものもあります。
安価なワインではありませんので、できればご購入の前に念入りに検討することをお勧めします。
主要な所有者に、
クルセル(1.07ha)、モンティ―ユ(1.02ha)、ミシェルゴヌー(0.69ha)、フェヴレ(0.51ha)、ルイジャド(0.36ha)、ジャン・マルク・ボワイヨ(0.16ha)
があります。
「ポマール」欧米では響きがいい?
ポマールという響きは、欧米ではキャッチーで、かつ高級感を感じさせるらしく、ポマールワインは古くから品質に比べて世界的に有名になっています。
有名であることはもちろんポジティブな面が多いですが、ネゴシアンワインの主戦場となってしまうというネガティブな面もあります。
ポマールという響きで売れてしまう結果、価格に比べて品質の伴わないワインも実際には多く出回っています。
特に村名クラスはこだわりの強いドメーヌ物以外はがっかりすることもおおく、これが日本での評価が高まらない理由の一つとなっています。
ポマールの特徴
濃厚な濃い赤色で、豊富なタンニンが特徴的な赤ワインです。
ベリーやプルーンのようなアロマとスパイスを強く感じられます。
タンニンが豊富なため、長期熟成に向いており4~10年が飲み頃と言われています。
南北の土壌で違いがあるため、ワインのニュアンスも違ってきます。
南側はミネラルを豊富に感じられる男性的な香りが強いワインです。
一方で、北側はまろやかで女性らしさを感じるワインと、南北で違いを楽しめるでしょう。
赤身の肉やスパイシーな料理との相性が良く、16~17度が飲み頃と言われています。
ジビエ料理との相性の良さは言わずとも知られています。
熟成することで獣のようなミネラルの印象が強くなるワインですので、これにジビエの鉄っぽさを合わせるのです。
品質の高さは知られているのですが、日本ではあまりなじみがなく、そのため上級者向けのワインといえるでしょう。
逆に言えばワインの価値のわかる人同士でじっくりとおいしいワインを飲もう、というときにこそ威力を発揮するワインです。
ブルゴーニュワインが好き、という人でも試したことのない人は多いかもしれません。
ある程度ブルゴーニュワインを飲みなれたころ、「次はどこのワインを飲もうか」というときに思い出してみてはいかがでしょうか。