
2015年に国税庁が定めた「日本のワインとは」の定義が、およそ3年間の猶予期間を経て10月30日から適用されることになります。
これは、それまでは任意的ないわゆる「紳士協定」であったワインの中身、特に産地表示について厳しく定めることによってワインの信頼性を高めることがその目的です。
ここでは、2018年10月30日から適用される産地表示の全体像と、その他の新しく決められた規定についても解説します。
国産ワインにとっては、まさに夜明けと言っていいでしょう。
今回の規制は「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律86 条の6第1項」がその根拠になっています。
同法の86 条の6第1項は86条の5を準用しているので、違反した場合は50万円以下の罰金の可能性のある罰則付きの規制です。
もっとも、新制度の導入による違反事例はニュースになりやすく、罰金以上に違反の事実が露出する社会的制裁のほうがよほどインパクトが大きいでしょう。
Contents
国産ワインの産地表示が厳しく
これまでの緩い表示規制

多くのユーザー様には信じられない話かもしれませんが、これまでの「日本のワイン」には、
”日本国内で栽培されたブドウを原料にする、イメージ通りの「国産ワイン」”
に加えて、以下のようなパターンもあり得ました。
①外国産のワイン原料(ぶどうジュース)を日本国内で発酵させたワイン
②外国産の濃縮果汁を日本国内で還元して発酵させたワイン
これらも「国内製造ワイン」として販売することは、法律上可能なのです。
当たり前ですがこれでは消費者はイメージの及ばないワインを「国産ワインだ」として消費してしまうのが実態でしょう。
また、高品質なワインを生産している国内のワイナリーからすれば並列に扱われることへの不満があったのです。
そこで、2015年の初頭に国税庁(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律が根拠法)が「日本のワインとは」の規制を制定し、実態との融和を図るべく3年の猶予期間を設けて2018年の10月30日から実行となったのです。
なぜ今になって規制がされたの?
お酒は国家からすればいい税源なので、あまり規制をかけてしまうと業界の反発を招いたり、規制をすることで委縮効果が出てしまうことを防ぐため、新規の規制化というのはなかなかしづらい本音があります。
また、日本には憲法13条に幸福追求権がありますので、新しい規制を設けるためにはそれなりの理由と根拠がなければ、場合によっては規制そのものが憲法違反である可能性だって残っているのです。
また、日本の国産ワインはそれまで品質も消費量も輸入ワインに比べればその存在感は薄く、どうしても規制が後手に回ってしまったことは事実でしょう。
しかし、
・近年の国内のワイン生産者の頑張り
・実際のワインの品質の向上
・国産ワインの認知度の高まり
によって、もっと国産ワインの消費者と生産者の保護を図ろうという流れがあり、それが2015年の制定につながったのです。
他の国の規制との比較は?
日本では、残念ですがいまでも国産ワインの消費量は輸入ワインに遠く及びませんし、輸出ワインについてはもっと少ないのが現状です。
一方、フランスやチリ(輸入量は一位になった)、イタリアやスペイン、アメリカやオーストラリアなどのワイン生産国はそうではありません。
特にフランスではワインは国の税収を左右するほどの存在感があり、そのため1945年にAOCという法律が定められて規制を強化しています。
これ以外にも、
・イタリアはDOCやDOCG
・スペインではDOやDOC
・アメリカではAVA
などの独自の規制を制定し、まがい物の流通を防いだり消費者に誤解を招くなどのリスクを軽減しているのです。
これらの国以外でも、ほとんどすべての国でワインの生産・表示規制はあって、ワイン生産国では規制がないのは日本くらいといってもいいかもしれません。
生産者独自の規制
国税庁が制定する規制は2018年の10月30日からですが、それぞれの生産者協同組合ではこれに先駆けて生産地表記を実質的に義務化させていて、全国的な規制はこれに準じた動きといえます。
例えば
・山梨県では2010年より「甲州市原産地呼称ワイン認証制度」
・長野では2003年より「原産地呼称管理制度」
を導入しています。
彼らからすれば、せっかく築いたワインのブランドを、どこの馬の骨が造ったかわからないワインに同じ産地表記をされたらたまったものではないと思うのは当然でしょう。
85%の壁?

では、今回の規制では具体的にどのような表記をする義務があるのでしょうか?
ざっくり上げると85%がその表記のポイントといえます。
・ワインの産地名(ex甲府、山形など 以下同じ)
・ぶどうの収穫地
・ワインの醸造地
これらをラベルに表記するためにはそれぞれのブドウを85%以上使うことが義務付けられます。
さらに、例えば「ワインの醸造地はAだけど、ブドウの産地はバラバラ」とかの場合は
「ブドウ産地はAではありません」
と正直に表示する義務も同時に課されます。
ブドウ品種についても同様に85%の規制があって、
単一ブドウ品種
複数のブドウ品種
であっても、それぞれ85%以上の割合でないと表記できません。
(複数のブドウ品種の場合は合計で85%以上必要で、多い順からラベルに表記する必要があります)
収穫年についても同様に、85%以上の単一収穫年でないと表記することはできません。
外国産ワイン、濃縮果汁還元の場合

コンビニなどの極端に安いワインは、多くが外国産のブドウや濃縮果汁を国内で発酵させ、「日本で発酵させたんだから国産ワインだ」としてこれまで販売していました。
しかし、さすがにそれをいつまでも放置しておくのはアレなんでということで、今回の規制をきっかけに表示を変更する義務が生じます。
濃縮果汁や輸入ワインの場合はそのものずばりを記載する必要がありますし、裏面にはさらに細かく記載する義務があるのです。
まとめ
日本の国産ワインの規制がざるで、「嘘さえつかなければいいでしょ」というレベルであったことは、残念ですがその通りだったと思います。
ただし、最近の国産ワインのワイナリーの品質の向上ぶりは目を見張るものがあり、さすがにザルのままではワイン生産者にも、消費者にも悪影響でしょう。
今回の規制は、それまで平気な顔で海外から輸入したぶどうジュースから「国産ワイン」を造っていた大手企業にすれば痛手かもしれません。
しかし、ワインの文化が根付き、さらに消費を拡大させようと思えばこれは当たり前のことであって、むしろ遅すぎる規制開始と言えるでしょう。
国家による市民権利への規制は、メリットととらえる人もいる一方、「余計なことをしやがって」とデメリットにとらえる人もいるかもしれません。
ただし国産ワインに関してはさすがにそれまでのざるっぷりがひどく、世論の反発はあまり見受けられません。
コンプライアンスの気風の高まりから、今回の規制をきっかけに厳しくなることはあっても緩くなることは考えづらく、それが最終的に消費者のメリットになると当サイトは考えています。
こちらの記事もお勧めです。
ここからはPRになります。
当サイト「ワインの教科書」は、高品質ワインのオンラインショップ「ワインブックス」を運営しています。
もしあなたが当サイトでワインに興味をもち、「実際に飲んでみたい、手にしてみたい」そう思ったときに覗いてみてください。
きっと素晴らしいワインとの出会いが待っていることを、お約束します。