
クリュ ブルジョワ(CRU BOURGEOIS)とは、1855年に定められたメドック格付けにもれたシャトーを中心に1932年に作成された格付けです。
メドック、オー メドック、リストラック、ムーリス、サンテステフ、ポイヤック、サンジュリアン、マルゴーで生産された赤ワインが認められています。
格付けにもれた、となると品質が伴わなかったからではないか、と思われるかもしれません。
しかし1855年の格付けはいい加減なところも多く、コネや政治的な意図でうまくハマったシャトーも少なからずあったのです。
格付けはされなくとも品質の高いワインを造り続けたシャトーは当時から他にもありましたし、格付け以降に出現した上質なシャトーも少なくありません。
1960年代から70年代にかけてクリュブルジョワのいわゆるプティシャトーが実力をつけ、1980年代になるとボルドーワインの中でも存在感を一層増してくるのです。
当初こそジャーナリストは格付けシャトーの二番煎じないしはこれに準ずるものとして扱っていました。
しかし一つ一つのワインを検討してみるとワインの品質そのものも決して格付けシャトーに劣るものではなく、個別では逆の評価のものも少なくなかったのです。
もっとも、クリュブルジョワは制度設計とその運営に波があり、これが足を引っ張る形で推移しましたが、現在ではボルドー全体でも強い存在感を示しています。
日本でのブルジョワという響きは新興成金みたいなイメージで半分茶化した言葉に聞こえますが、中世のボルドーでは特別の意味があるのです。
これは何を意味するのかというと、貴族の身分こそ持たないけど帯剣と土地所有(もしくは賃借権)が認められた商人の特別の階級のことを指すのです。
フランスでは19世紀のナポレオン民法の発足までは所有権絶対の原則はなく、一部の限られた特権的な身分のひとが領有し、これを市民が使わせてもらっているという仕組みだったのです。
その経緯を知ると、ブルジョワ階級というものがいかに優越的な立場であったかがわかります。
現在のクリュブルジョワは、ワインは第三者委員会によってブラインド テイスティングされ、品質はもちろん環境への配慮など様々な要因から評価を行います。
その評価を基に2008年ヴィンテージからは認証を与えるという形をとっていました。
その後認証という形ではなく品質による”格付け”を行うべきという声が大きくなったため、2018年ヴィンテージからは3つのクラスへの格付けが行われています。
この後にご紹介するクリュブルジョワの成り立ちをみると、何度となくスクラップアンドビルドをくりかえし、そのたびに同じ議論を繰り返していることがわかります。
つまり1855年の格付けに対抗する別の格付けが欲しいのですが、やろうとすると「わかりづらい」とか「なぜうちが入らないんだ」とかの批判がでてでなおし、しばらくするとまた同じ理由ででなおす羽目となるのです。
これを懲りないと思うか粘り強いと思うかはそれぞれだと思いますが、結果として現在でもお値打ちで品質の高いボルドーワインを飲もうというときの指標になっていることはその通りでしょう。
クリュブルジョワとは?
経緯
1932年に作成された当初は、法令による公式な格付けではないものの444ものシャトーが3つのグループに格付けをされたのです。
当初の格付けは以下のとおりです。
・ブルジョワ シューぺリュール エクセプショネル
・ブルジョワ シューぺリュール
・ブルジョワ
しかし、構成するシャトーそのものも世界的な不景気と第二次世界大戦により数が減少し、組織も形骸化したこともあり、制度設計の見直しを余儀なくされます。
そして1962年に再度有志が集まり、この制度を復興させようと自らの手で格付けを作るのです(実際は受賞者名簿という形だった)。
多くのシャトーを認めてしまうと格付けそのものに価値がなくなると考え、当初とは違い大きく絞り込んだ選定となります。
クリュ・グラン・ブルジョワ・エクセプショネル 18シャトー
クリュ・グラン・ブルジョワ 44シャトー
クリュ・ブルジョワ 38シャトー
フランス政府は当初私的団体を公式なものとして格付けに組み込むことはできないとして冷たい態度をとっていました。
しかし1972年に業界団体の粘り強い運動が奏功し、農務省が押し切られる形でしぶしぶ省令で認めようということになったのです。
ところが今度はECから横やりが入ります。
1976年のECのワイン法による表示としてはわかりづらいと指摘が入り、唯一クリュブルジョワの表記しか認めることはできないとの決定がされるのです。
決定はかなり厳しく、表記が限定されるだけではなく任意規定、つまり表記に強制力を持たせないザル制度としての認定だったのです。
これは何を意味するのかというと、いち民間団体のきめる格付けは真正面から認めることはできないという強いメッセージといえるでしょう。
このように産みの苦しみがあったものの関係者の努力によって制度そのものは次第に軌道に乗り始めます。
この当時は10年に一度行う独自の格付けという形でしたが、公式な格付けに向けた動きが功を奏し、新しい制度が2000年に農務省の省令で定められることになるのです。
しかし今度は2003年の格付けの際にシャトーからの申し込みが多く、多くのシャトーを格付けから外さねばなりませんでした。
その結果、格付けからもれたシャトーは審査団に疑問を呈し、格付け機関に対して法的手段をとり、2003年の格付けは無効となってしまうのです。
ちなみに無効は法的には取り消しと大きく違い、最初からなかったことにする、というものです。
そのため省令の認可も無効となり、2008年からクリュ ブルジョワ表記そのものが無くなってしまうという結末を迎えるのです。
一時期はメドックの40%ほどのワインを占めるまでに成長しましたが、公式の格付けでは再度なくなってしまい、2008年からは格付けではなくヴィンテージごとに認証を与えるという形になりました。
2009年から生産者組合を中心にクリュ ブルジョワ連盟が結成され、格付けではなく独自の認証を行うという形で再出発をします。
ヴィンテージごとに第三者委員会によるテイスティングなどを行い、シャトーの認証の是非を問うという形にしました。
しかしこの認証という形ではブランド性が打ち出しづらく、有名シャトーがクリュブルジョワから脱退してしまいます。
その事態を危惧した組合側は新たな格付けの導入を考案し、2018年ヴィンテージからは
・クリュ ブルジョワ エクセプショネル
・クリュ ブルジョワ シュペリュール
・クリュ ブルジョワ
という3段階の格付けを行う事になり、現在に至ります。
いかがでしたでしょうか。ユーザー様は「懲りないなあ」と思ったか、「粘り強いなあ」と思ったか、どちらでしょうか。
北部エリア
ところで、クリュブルジョワを検討するのに避けて通れないエリアは、何といってもサンテステフ以北の旧バメドックでしょう。
おそらくほとんどのワインファンの皆様にとってなじみが薄いと思うのですが、サンテステフの北側の部分にも多くのシャトーがあって、近年見過ごすことのできない品質になってきています。
クリュブルジョワ以外の話題では目にすることはほぼないので、今回はここを少し見てみましょう。
サンテステフのさらに北部となると、ブドウ畑は次第に影を潜め、雑木林が多くなりジャガイモやトウモロコシ、蕪などの野菜畑が徐々に目立つようになります。
海側に近づくにつれて植生も変わってきて今度は松林が増え、海岸地帯の雰囲気がではじめ、そして潮風を感じるようになります。
ボルドーとはいってもブドウ畑がびっしりと並んでいるわけでもないし、ポイヤックやコートドールに比べるとずいぶんと緩い雰囲気が漂います。
そしてもっとも海寄りのスラックシュルメール↓になると温泉地のようなより一層ゆるい空気が漂います。
このエリアはもともとバメドックといって、ジロンド川の下流域に属するためBAS MEDOC(メドックの下)という表記をします。
これが上下の意味と混同されやすく、また実際に高級ワインはバ メドックに少なかったので軽視されてきたのです。
これを現地の親爺が見過ごすはずがありません。
こんなんじゃやってられないといろいろと働きかけた結果、現在ではバの文字がなくなり、単にメドックと名乗ると北側のエリア、オーメドックは今まで通り南側のエリアとなるのです。
北部メドック(旧バメドック)を構成するコミューンは以下のとおりです。こんなにあるんだ程度で問題ありません。
Bégadan,Blaignan, Civrac-en-Médoc,Gaillan-en-Médoc,Grayan-et-l’Hôpital, Lesparre-Médoc,Naujac-sur-Mer,
Le Verdon-sur-Mer, Ordonnac,Prignac-en-Médoc,Queyrac,Saint-Christoly-Médoc,Saint-Germain-d’Esteuil, Saint-Seurin-de-Cadourne, Saint-Yzans-de-Médoc, Saint-Vivien-de-Médoc, Soulac-sur-Mer,Talais, Valeyrac,Vendays-Montalivet,Vensac,
ボルドー旅行のシャトー巡りのツアーであってもほとんどはサンテステフで引き返すのが通例で、ここをさらにバ メドックまで行こうというのはよほどの変わり者だという扱いでした。
それも仕方がありません。ここのエリアはかなりの量を生産しているのですが、その多くはながいこと樽ごとネゴシアンに売られ、ブレンド用のワインとして出荷されていたのです。
ボルドー市から出発するとマルゴーやポイヤックなどの花形がそのクライマックスになりますが、そのあとに無名のバメドックをめぐるなんて野暮ことはどこのツアー会社もやるわけがないのです。
ところが実際には旧バメドックにも秀逸なワインはあって、その多くがクリュブルジョワに認定されることとなります。
ことに、ここのエリアは他の地区のような重鎮がいないせいか若い生産者が台頭しやすい素地があって、優秀な若手醸造家が腰を据えてワイン造りをしているのです。
下流域だと堆積土壌のため本当の意味でのトップワインは難しいかもしれませんが、生産者の努力と熱意によってこれらがフォーカスされるときも遠くはないでしょう。
実際に味わうとこれがボルドーの風格を感じさせるもので決して侮れないのです。
気軽においしいボルドーワインをのみたい、という時に、思い出してみてはいかがでしょうか。
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